三人の男
私はとっくに還暦を迎えた男である。
自分の塾を作るにあたって、何で今更…という思いもほんの少しだがなくはなかった。
でもそんな思いは、目に見えない、理屈では測れない力のようなものに吹き飛ばされた。
イシダ塾はアライがやっているけれども、クマ塾とはやはり違う。
塾という入れ物を作るのはそう難しくはないが、そのハートになる部分を構築するのは簡単ではない。
何しろ目の前の子ども達と一緒に作っていくのである。
私が頭で考えた絵を具現化してゆくのは目の前の子どもである。
だからこの塾に谷先生と卒業生の石田賀陽子さんが名前を連ねてくれていることが意味深いのである。
私は何のための塾を作ったのか?
少し気障な言い方だが、子ども達を幸せにしたいからだ。
そしてそれを支える周りの大人たちも一緒に幸せになってもらいたい…そう願っている。
それが私の幸せなのである。
ちゃんとやっていれば、たぶんそれは手に入るだろう。
そんな幸せを私は、今はいない三人の男とも共有したかった。
一人はマサミチである。何を生き急ぐ必要があったのか?彼はもうこの世に居ない。
次が清司である。彼とは付き合った歳月はそう長くないが色々触発されあった仲だと確信している。彼の無事を祈っている。
もう一人がこれも所在が不明の、私の実兄である。
この三人の男は年を重ねた私をわかってくれ、幸せを共有できた男であったに違いない。一番いい時に一緒に居ないこの不幸。
そんな思いを胸に秘めながら、子ども達にはほんとの意味で幸せになるんだよ!と声には出さず告げている。
勉強はできるに越したことはない。
でも、引き換えにはできない大切なものがある。勉強や受験ごときで壊していけないものがあるのだ。
私などにできることはそれを伝えてゆくことくらいだろうと思う。