子捨て
赤ちゃんポストというのがほんとうにある。
ポストでないところに我が子を捨てる親がいる。
私の教え子で本当に親に捨てられた子がいる。
かく言う私はまだ小さい小学生の頃、母親にこう言われたことがある。
ちょっとこっちおいで。
ん?…膝の上に座らされ、対面して抱っこされた。
今でいうハグの状態で、母は耳元で囁くように言った。
『根岸のおあばちゃんの子になるか?』
そのおばちゃんは母の友達で子が居ない。
荒井さんちの末っ子をもらえないか…これは本当にあった話らしい。
で、私は、そんな小さいのに“いった方がお母ちゃん、楽やねんな”と瞬時に考え、
『うん』と言った。
その言葉を聞くなり母は息ができないほど強く抱きしめ、
『ごめんやで、もう二度と言わんから、堪忍やで』と言った。
細かい記憶はおそらく間違っているだろう。
が、大筋はこうだ。
だから、私にはグレたり、不良をしたりする暇はなかったのである。
あんなことをできるのはまだ余裕があるからだ…と思っている。
こんなに苦しんでいる親を泣かしたり、困らせたり、恥をかかせたりできないのだ。
母親はぎりぎりで私たちを育ててくれた。
安易に金を稼ぐ方法ならほかにいくつかあったかもしれないが母はその選択はしなかった。
親は背中で子を育てるべきだ…と、私は思う。
が、私にはそれはできなかった。
あの世で母に再会したら、あんた、やっぱり根岸のおばちゃんとこ行った方がよかったんちゃうか?と言われそうだ(^^;