間違いだらけの中学受験+α

小さい小さい個人塾の塾長ブログです。

単なる懐古ではなく…

私が自塾を開業したのは二度目である。
初めの塾をやっていたころは今とはもろもろの事情がかなり違っていて、子ども達の様子も当然違っていた。
私は、いつも子ども達に人としての道理とか、常識とか、他者への思いやりとか、とにかく勉強以前の問題をよく問うた。

子ども達はそれに応えようとしてくれた。
親たちの中にはそんなことに無関心な人も少なからず居たが、それも仕方ない。
現実、どこかに合格させて塾はなんぼであるのだから。

当時居た、ある女の子の話だ。
入試で不合格になった。
泣きながら発表の掲示場所から電話を掛けてきた。
帰りに寄ってくださいと言って電話を切った。

教室で話し合い、なんとか気持ちを切り替えて次の試験に向かおうということになった。
が、顔も上げない。まだ泣いたままだ。
その子がどれだけその入試にむけて情熱を傾けていたかがわかる。

話が終わり皆で席を立った。
その子は靴箱に向かい、靴を出した。
自分のではなくお母さんのを先に出したのだ。
私はそれを見てぐっと来てしまった。
そして、お母さんにこう言った。

『お母さん、こんなつらい時にこの子はこれができる子なんです。学校なんてどこに行ってもこの子は大丈夫ですよ。いい子に育ちましたね。』
そこから親子はまた泣き出した。

いま、どんな大人になっているだろうか。
音信が絶えて久しい。
私はこういう場面に立ち会わせてもらえて幸せな人間である。

たった10年やそこらで世の中はそんなに変わってしまったのか?
私はそうは思いたくない。